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第8話 -学ぶ-



 “日本の大学生の勉強時間は、小学生以下?”
 先日ネットを見ていたら、そんな文句が目に飛びこんできました。さらに見ていくと、欧米の大学生と比べ日本の大学生がいかに勉強していないか。それがグラフで示されていて、一目瞭然なのです。
 “天然資源のない日本は、科学で知的財産を生みだし国の力をアップしていかなければならない。”
 これは、IPS細胞で知られた山中京大教授の言葉ですが、日本は、もともと科学技術の力をベースに発展してきた国でもあるわけです。しかし、知的財産を生みだすにしても科学技術にしても、まずは学ぶ・・こと・・が欠かせません。



司会(松山):
 そこで、今回(第8話)は、私たち日本人にとって“学ぶ”ことの意味を、とくに未来との関係で考えてみたいと思います。

出席者は、
 北野三郎(34歳 弁護士)
 白井恵子(47歳 社長秘書)
 小池雅彦(23歳 大学生)
 中山のぶ子(24歳 脳科学を勉強中の大学院生)
 小島道代(65歳 主婦で哲学塾の生徒)
 それに、MC(司会)  私・松山遼人
と、いった顔ぶれで話しを進めていくことにします。

司会(松山):
 さて、学ぶとひとことでいいますが、その学ぶ対象といったらとても広い。幼児が「うま、うま」とか「マンマ」からはじまって、「ママ、パパ」と言葉を覚えていく。外国人が和食を食べるのにハシの使い方を覚える。そのすべてが勉強であり学びなわけです。
 というわけで、“学ぶ”を未来との関係で考えるとすると、何かしぼりをかける必要があるんじゃないかとおもうんですが。北野さん、どうでしょう?

北野:
 そうですね。
 人とのつき合いかたにしても勉強が必要ですが、それだとあまり広すぎますからね。

司会(松山):
 どういう風にしぼったらいいだろうか?

北野:
 やはり、冒頭でMC(司会者)がいったように、日本の力をアップさせるのに役立つような学びですね。別に学問にかぎらないけど、知的・・財産・・創造・・のた・・めの・・学び・・といったらいいのかな。それを中心に考えていったらどうでしょうか。

司会(松山):
 そうしましょうか。
 先日の新聞に、ノーベル賞物理学者の江崎玲於奈(れおな)さんのこんな言葉がのっていました。
 科学・技術にとって平成はどんな時代だったか、ときかれて
 「世界全体の交流が密になった。大きな影響を与えたのはiPhoneじゃないでしょうか。」 そして、創造性の重要さについて、こういっています。「将来は、現在の延長線上にあるような感じをもつかもしれないが、科学はちがう。ブレークスルーやイノベーションが起きる。将来は(人によって)つくられるものです。だから、創造力が決定的に重要である」、と。

中山:
 脳科学の方面からみても、人の脳というのは、学習し創造力を発起するようにできているんですね。ですから、創造する力を養うためにはまず学ぶことが重要なんです。その意味でも、学生時代は有意義にすごしていただきたいと思います。

司会(松山):
 なるほど。
 では、まず日本の将来を背負っていかねばならない大学生の勉強からみていくことにしましょうか。
 小池さんは、現役の学生さんでしたね。年齢は23歳でも(笑)。授業には毎回キチンと出ていますか?

小池:
 いや、そうでもないですね(笑)。クラブ活動(柔道)がけっこうたいへんなんで。

司会(松山):
 なるほど、体育会系ですか。ほかのみなさんは、どうでしょうか?

小池:
 ごくまれ・・にですが、自分のとっている授業にはすべて出席し、熱心にノートをとっている学生もいますね。だけど、ほとんどの学生は、けっこういいかげんにやっているんじゃないかなぁ。

北野:
 じつは私、大学生の勉強時間をネットでチェックしてみたんですよ。そしたら、ちょっとショックなデータにぶつかったんです。

司会(松山):
 というと?

北野:
 日本の大学生のばあい、一日の勉強時間は文系が一日(平均)32.2分で、理系が59.6分だというんです。

司会(松山):
 それはたしか、文系と理系をあわせると、一日(平均)49.6分というデータの内訳でしたね。

北野:
 そうです。つまり、大学生は一日(平均)50分も勉強していないということになりますね。
 ということは、授業の予習とか復習はほとんどしていない。それに6人に1人は、まったく勉強をしていない。そんな指摘もあるんです。

小池:
 北野さんは文系だけど、司法試験にうかって弁護士になったんですよね。すると学生時代も、ずいぶん法律の勉強をしたんじゃないですか?

北野:
 ええ、「もう一回受験勉強をやれ」といわれても、もういい(嫌)ですね(笑)。その位やったし、受験のための勉強なんて面白くもなんともないので。

司会(松山):
 たしかに、受験のための勉強には、忍耐が求められますね。重い荷物を背負って、乾いた砂漠を黙々と歩くラクダのように。

北野:
 ずいぶんと、文学的な比喩(ひゆ)ですね(笑)。

小島:
 いえ、おそらくMC(司会者)は、ニーチェの人生(精神)三段階論によって話しているのだと思いますよ。

司会(松山):
 (笑っている)

北野:
 それはどういうことです?

小島:
 哲学者のニーチェは、創造の大切さとともに、創造にいたる道筋を説いています。人は一気(いっき)に物を創造することはできない。
 創造・・する・・には・・長い・・修練・・の時・・が必・・なのだ、と。

司会(松山):
 そうですね。私達は、長い歴史の間にたくさんの知識を習得してきた。創造というのは、この知識のストックのうえに何か・・をつみ重ねること。だけど、それ(=創造)を可能にするには、まずはじめに知識のストックを自分のものにしなければならない。

小島:
 それが、ニーチェのいうラク・・ダの・・時代・・ということなのでしょうね。

北野:
 つまり、知識の習得というのは、たいくつで苦しい。あたかも、延々としゃく熱の砂漠を歩くラクダのように。しかし、人には人生において、ラクダの時代を欠かせない。そういうことですかね?

小島:
 ええ。おなじ哲学者の梅原猛さんも、このニーチェの考えに賛成しています。

司会(松山):
 ニーチェは、“精神は最初ラク・・(=忍耐)の時代を迎える。そのラクダは旅の途上で、とつじょライ・・オン・・に変貌する。ライオンの特徴は勇気だ。しかし、更にライオンは、小児にならねばならない。小児の心を支配するのは、遊びの精神で、創造は小児にのみ許された特権なのだから”といっています。
 梅原猛さんも若き日、このニーチェの言葉に心をうたれた。そして、この三段階説こそが人生の理想である、といっているんですね。

小島:
 はい。

司会(松山):
 さて、今回のセミナーは、その対象の広さと大学生の勉強の実態からはじまり、話がニーチェの人生3段階論へと進んできました。
 白井さん、このあたりで何かご意見はありませんか。

白井:
 お話を聴いていて、私も学生時代はラクダになってもっと勉強をしておけばよかったな、って感じています(笑)。

司会(松山):
 それは、40代50代といった働きざかりのみなさんが言っていますね。学生時代にもっと勉強しておけばよかったって。
 だけど、白井さんは働きはじめてから、エクセルの上級資格を取得していますでしょう。それに、独学で簿記を勉強したりと、いろいろ努力している・・・。

小島:
 えらいですね、白井さんは。人って、いくつになっても、学び・・つづ・・ける・・ことが大切だと思うんですね。

司会(松山):
 私事(わたくしごと)になりますが、20代の頃、小倉遊亀(おぐらゆき)という女流の日本画の大家から柴犬の子犬を貰ったことがあるんです。4、5人の勉強仲間と北鎌倉の小倉宅に出かけていって。その先生はかなり高齢でしたが、私たちに向ってこういったんです。『人間、一生勉強です。わたしは今も(絵の)勉強をしています。』、と。あの言葉は、いまだに私の脳裡にやきついて離れませんね。

北野:
 MC(司会者)は、昨年12月にミステリー(短編)をホームページにのせましたね。

司会(松山):
 ええ。

北野:
 あの小説に出てくる小山静江画伯のモデルは、その小倉遊亀さんだったのではないんですか。

司会(松山):
 (笑ってうなずく)
 さて、本題に戻り、こんどは“学びかた”をとりあげてみたいと思います。どなたかご意見はありませんか?

(小池が手をあげた)

司会(松山):
 はい、小池さん。キミは“知の巨人”といわれる先生のT大学時代の教え子になるのかな?黙って授業を聴講していたんでしたね(笑)。

小池:
 (照れながらうなずいて)
 ぼくは学びかたも、時代の移りかわりによって変わってきているように思うんです。
 1990年代は、人はやはり紙の“本”で学んでいた。しかし、2000年代になると、“インターネット”ですね。まずはググってみて、良さそうなサイトで勉強をする。それに本も、キンドルで十分となってきます。
 そして、2010年代になると、いきなりYouTube(ユーチューブ)へ行ってしまう。この傾向は、とくにアメリカの学部生に多くみられるといいますね。たしかに最近のYouTubeは、とてもよくできている。とくに英語で調べると、その充実度は日本語の比ではない・・・。

北野:
 たしかに、時代の流れとともに“学びかた”というか、学ぶ手段も変化してきていますね。
 しかし、私たちにとってより重要なのは、(ツール(道具)の問題というより)やはり創造力を養うのに役立つような勉強の方法だと思うんですが。

司会(松山):
 なるほど。その点はどうでしょうか、小池さん。

小池:
 おっしゃるとおりだと思いますね。
 ただ、国力というか、国の経済力という面からいうと、人口学でいう『機会の窓』の問題を無視できないと思うんです。

司会(松山):
 たしかに、その問題は重要ですね。創造力をつける学びの問題に入る前に、その解説をしてくれませんか。

小池:
 はい。国連の人口学者の定義によると、『機会の窓』とは、“人口全体に占める、子供(0~14歳)の割合が30%パーセント以下で、高齢者(=65歳以上)の割合が15パーセント以下であるような人口構成が達成されている期間”ということなんです。

北野:
 逆からいえば、15歳から65歳未満までの割合がおよそ55パーセントですね。働き手が全人口の過半数をこえている。それがベストの人口構成だということでしょう?

小池:
 はい、そうです。

司会(松山):
 日本のばあいは、1965~’95年の30年のあいだ『機会の窓』がひらいていた。それは、あの“団塊の世代”が活躍していた時代で、まさに日本の黄金期でした。

小島:
 あの頃は、“1億総中流”といわれた時代でしたね。

司会(松山):
 ところがいまの日本は、人口の先細りと少子・高齢化の時代にはいっています。すると『機会の窓』の角度からみるかぎり、日本の国力(≒経済力)はこれからどんどん下がっていく・・・。

北野:
 今後も『機会の窓』がつづいていく国って、どんなところですか。

小池:
 中国やインド、ブラジル、それに注目すべきはイランあたりですね。世界は、どんどん中国やインドといった国々にリードされていくことになると予測されています。アメリカも、2015年に機会の窓が終っていますので。

白井:
 日本は、もうダメでしょうか?

司会(松山):
 いや、だからといって悲観することもないと思うんですね。別の視点からみれば、ちがった展望もひらけてくるはずですから。
 (そういって小池のほうを見て)小池さん、天然資源について、知の巨人の知識を披露(ひろう)してくれませんか?
 まずは、海洋資源のことからでも。

小池:
 わかりました。
 日本は天然資源にとぼしい国だ、といわれていますが、少しちがうと思う。海洋資源などは、じつに豊富にあると推定されているんです。問題は、その豊かな資源を掘り出して利用する技術の点ですね。つまりその技術をいかに開発するか。そこにかかっていると思います。

司会(松山):
 なるほど。では、海洋資源のことをすこしくわしく説明してくれませんか。

小池:
 わかりました。
 日本は国土は狭いですが、利用可能な海(=経済水域)はとても広い。世界6位の大国です。その経済水域には、じつに豊富な資源、希少価値の資源があると見込まれています。
 たとえば、メタンハイドレート、海底油田・ガス田、海底熱水鉱床、マンガン団塊、コバルトリッチクラスト、レアアース資源泥などですね。
 その潜在的なパワーは、とてつもなく大きいものといわれています。

白井:
 海底油田やガス田は、わたしでもわかります。
 だけど、メタンハイドレートとかコバルトリッチクラスト、それにレアアースなんとかというのは、どんなものなんですか?

小池:
 メタンハイドレートとは、メタンと水が低温・高圧の状態で結晶化した氷状のもので、火をつけると燃えます。それで“燃える氷”ともいわれているんですね。
 日本では、『南海トラフ海域』といわれるエリア -その深海の海底から数百メートルまでの地層- にあると見られています。

白井:
 まだ、メタンハイドレートを生産する技術は、開発されていないんでしょうか?

小池:
 ええ、まだのようです。だけども、効率よく取り出す技術さえ確立されたら、すごいことになりそうなんですね。
 日本の天然ガス消費量の100年分以上があるようなので。

白井:
 まぁ、すごい。
 で、コバルトリッチクラストですけど、これはどこにあるんでしょうか。

小池:
 日本のもっとも東の端(はし) -南鳥島(みなみとりしま)- の深海で発見されています。主な成分は鉄やマンガンですね。マンガン団塊と似てはいますが、白金・・を含んでいるのが特徴だといわれています。
 あと、レアアース泥ですが、これはレアアースというものを豊富に含んだ泥のようなもの(堆積物)なんです。2013年に、やはり南鳥島周辺の水深5000~6000メートル付近で発見されています。太平洋に広く分布しているため、膨大な量にのぼるとみられているんです。

白井:
 レアアースって、どんなものに使われるのでしょうか?

小池:
 ハイテク機器の製造にかかせないものですね。用途はとても多いです。
 たとえば、モーター、マイク、スピーカーといった超強力な磁石の磁性体。照明、ディスプレイといった蛍光体。プリンターの印字ヘッドから原子力産業(制御棒、核燃料添加剤)などなどですね。

白井:
 わかりました。
 どうもありがとうございました。

司会(松山):
 近ごろ、海洋研究開発機構などの共同研究チームが、房総半島の沖合(350キロメートル)にコバルトリッチクラストの存在するのを確認した、と発表していますね。
 この物質は、コバルトの含有率が高い。それに、他の希少金属なども含む貴重な資源です。EEZ(=経済水域。正確には排他的経済水域)のなかに『宝の山』を発見したことで、それを取りだすことにおおきな期待がもたれています。

白井:
 (排他的)経済水域ってどういう風になっているんでしょうか?

司会(松山):
 領海の外側(基線)から200カイリ以内で、沿岸国に資源を探査したり開発・保存する排他的な権利の認められる水域のことですね。英語では、Exclusive Economic Zone(=EEZ)というんですが。

白井:
 そこでいう資源には、どんなものが含まれるのでしょう?

司会(松山):
 生物にかぎらず、海底や地下にある鉱物資源も含んでいます。

白井:
 すると、房総半島の沖合で発見されたコバルトリッチなんとかという資源も、日本がひとりじめできるということなんでしょうか?

司会(松山):
 まぁ、そういうことになりますね(笑)
 白井さん、海洋資源についてもっと調べてお話したほうがいいですか?

白井:
 いえ、けっこうですよ。
 おそらく調べてもらっても、わたしにはわからないでしょうから(笑)。

司会(松山):
 (笑いながら)ともかく日本には、海洋資源が豊富にある。ただそれを取りだして『現実の富』にしていくには高度な技術がいる。しかし、日本は科学技術のたいへん優位な国だから、おおいに希望がもてるわけです。そこまではいいですか、白井さん?

白井:
 はい、オーケーです(笑)。

司会(松山):
 で、小池さん。
 この海洋資源をめぐる世界の動きですが、それはどんな状態でしょう?

小池:
 はい。
 1994年に、国連海洋法条約というのが発効しています。そしていま、世界が公海の海底資源の利用をめぐって、たいへんな競争を展開しているんです。

司会(松山):
 技術のある日本はそのトップを走っている、といわれます。そのあたりはどうでしょうか?

小池:
 恩師(=知の巨人)の受け売りですが、日本では、すでに08年に海洋基本計画が作られています。そして、つねに世界のトップを走りつづけようと、すべての局面でがんばっています。なかでもシンボリックなのが、調査掘削船「ちきゅう」ですね。

司会(松山):
 どういう点でシンボリックなのかな?

小池:
 まず、その掘削能力が世界一だということですね。
 掘ろうとおもえば、「マントル(地球の地殻(ちかく 最外層)の下から深さ2900キロまでの部分)まで掘れる世界唯一の船」といわれています。じっさいに「ちきゅう」は、世界の海の海底をあちこち掘削してまわっているんですよ。

司会(松山):
 その「ちきゅう」は、ほかの面でも大活躍していますね。たとえば、過去にあった南海トラフ大地震の解析。あるいは、東日本大震災のときに起きた大津波(おおつなみ)の原因究明など。

小池:
 そうですね。
 国際深海科学掘削計画(IODP)というのがあるんですが、「ちきゅう」は、その主力船になっています。人類がまだ達成していないような科学の命題に挑戦し、人類の進むべき方向を示す。それも科学的に。「ちきゅう」にはそんな期待がもたれているんです。

司会(松山):
 「ちきゅう」を造船するのもそうですが、どんなに優れた発明であっても、まずはそれまでの研究の成果(=蓄積)を学ぶところから出発しなけれなならない。その成果のうえに新たな創造物をつみあげていくわけですから。で、だれもがラクダ(=忍耐)の時代を経験しなければならないんですね。

小島:
 そう思います。

司会(松山):
 さて、つぎにエネルギー問題にいってみましょうか。原子力発電のぜひ・・でだいぶ世間を騒がせてもいますし。
 小池さん、ご意見はありませんか?

小池:
 やはり日本は、もっと地熱・・発電・・とか太陽・・光エ・・ネル・・ギー・・を活かしていくべきではないか、と思うんです。

司会(松山):
 そういった意見はよく耳にしますね。

小池:
 だって、もともと日本の国って、マグマの海に浮いている火山列島じゃないですか。国中のいたるところに火山帯がある。そのあり余る地熱をもっと活用しないはないと思うんですよ。

白井:
 ほんとですねぇ。
 わたしたちは、地震が起きるたびに火山列島のうえに住んでいることを痛感させられてます。で怖い思いをしている。でも、発想を転換して、それは悪いことばかりではない。日本は世界でもめずらしい無尽蔵(むじんぞう)の地熱保有国である。ポジティブにそう考えるということですね。

小池:
 ええ。

司会(松山):
 太陽光エネルギーについてはどうでしょうか。

小池:
 これは、貯蔵の方法がむずかしいんですね。
 だから、太陽光を効率よく大量に貯(たくわ)える技術。それが開発されさえすれば、これも無限といっていいほどのエネルギー源になると思うんです。なにしろ光源は太陽なので(笑)。

白井:
 そうなれば、リスクのある原発・・に頼らないですむわけですね。

司会(松山):
 クリーンエネルギー時代の到来で、理想といってよいですね。
 そういえば先日、長いこと太陽光発電にとりくんできたT商科大学がこんな発表をしています。
 昨年1年間の自校の消費電力は、自力の太陽光発電で100パーセントまかなった。日本は、活用できる自然エネルギーが世界でトップクラス。あとは『やる気の問題』だ、と。立派なお手本ですね。
 さて、時間の関係もあるので、つぎに進みますが、小池さん。日本の工業製品の元気度はどうでしょうね。

小池:
 どうも完成品の売れゆきは、元気がよくないようですね。トヨタ(自動車)などの一部を除いて。

北野:
 ほかの国に遅れをとっているということですか。

小池:
 そうですね。
 だけど、ハイテクの電子部品。それも、超小型で高性能のものですね。その分野は日本の独壇場(どくだんじょう)のようです。世界中に日本のものが出まわっているんです。

司会(松山):
 アップルのiPhoneは、中国で組み立てられている。だけど、千点以上からなる部品の4割は日本製だ、といいますね。

小池:
 ええ。先生(=知の巨人)は、日本のハイテク電子部品は圧倒的にすぐれている、といっています。パナソニックなどといった社名ものっていて。日本にとって代われる部品の供給元は、どこにも見当たらないようですね。

司会(松山):
 SAP(高吸水性樹脂)といった、素材・・ ‐紙おむつなどでに使われるようなもの- ですが、この分野はどうでしょうか?

小池:
 SAPは、そのジャンルに大革命をもたらしたといわれています。
 N触媒は、SAPの生産能力では世界一のようですね。

白井:
 すこし前まで、インドの赤ちゃんなんかは素っ裸で遊んでいたようですね。家の中でも大小たれ流しだとか。ですから、日本の紙おむつなども、これから有望ですね。

司会(松山):
 そのようですよ。
 その高吸水性樹脂(吸水性ポリマーともいう)の分野の市場は、いま爆発的に拡大する寸前にある、といわれていますね。 ところで、炭素繊維(たんそせんい)の市場などはどうでしょうか。

白井:
 すみません。
 その前に、炭素繊維ってどんなものなんでしょう?

小池:
 この繊維の特徴は、とても強くてしかも軽いという点です。たとえば、強さは鉄の10倍、重さは鉄の4分の1、といったぐあいに。

白井:
 わかりました。

小池:
 炭素繊維は、Tレなど日本の三社だけで世界の市場の7割を占めている、といわれています。

司会(松山):
 日本航空(JAL)は、かつて経営につまずいたけど、2012年9月に再上場を果たしたんですね。みごとなV(ブイ)字回復でした。その救世主になったのは、(再建に当ったI氏の手腕もさることながら)ひとえに炭素繊維だった(笑)。
 そうはいえないでしょうか、小池さん。

小池:
 いや、いえると思うんです(笑)。
 というのは、日本航空はそれまでジャンボ・ジェット(=ボーイング747)を使っていた。ジャンボは、胴体、主翼、尾翼がすべてアルミで重かったんです。それをボーイング787へと切りかえた。787は、とても軽い。それまでのアルミの部分をすべて炭素繊維複合材にチェンジしたので。

司会(松山):
 つまり、ボーイング787に代えたので燃費(ねんぴ)が格段によくなった。それで、運航費用の大幅なコストダウンに成功した。V字回復ができたのは、そのお陰というわけですかね。
 では、炭素繊維をクルマ(自動車)に用いたらどんなものだろうか。

小池:
 もしクルマにそれが使われることになったら、たいへんですね。需要は、莫大(ばくだい)にものになるでしょうから。

司会(松山):
 ともあれ、いま産業界には素材・・革命・・が起こりつつあるようですね。
 それに素材のほかにも、スーパーコンピューターといったような元気のでる材料はいろいろあるといわれています。
 しかし、時間の関係もあるので、つぎに医療のことをとりあげてみたいと思います。
 小池さん、どうぞ。

小池:
 IPS細胞は、創薬のありかたに大変革を巻き起こしています。
 たとえば、IPS細胞の技術を使えば、心臓病患者のヒフ細胞から大量にその患者の心臓細胞をつくることができる、といったように。

司会(松山):
 IPS細胞に関しては、いまやその実用化に向けて、世界中でさまざまな研究・開発が行われています。これは周知の事実ではないかと思います。
 しかし、“IPS細胞を使わないで心筋細胞(=心臓の筋肉の細胞)をつくる新技術が開発された”、というニュースがあるんです(今年2月21日(木)の日経新聞朝刊)。
 筑波大のⅠ教授とワシントン大の研究員らとの研究の成果ということですが・・・。

北野:
 そのニュースは、私も見ました。
 遺伝子を導入し、消炎・鎮痛剤(ジクロフェナク)を加えると、拍動する心筋細胞が高い効率でできた、といっていますね。

司会(松山):
 ええ。
 イギリスの科学誌『ネイチャーコミュニケーションズ』に2月20日に発表した、とありました。
 遺伝子といえば、体内に遺伝子を入れて病気をなおす『遺伝子治療薬』ですね。それが今年の五月ころにも、日本にはじめて登場するようですね。このジャンルでは、日本はすこし出おくれていたようですが。

北野:
 足の血管を再生する薬と、血液ガンの治療薬。それらの薬を承認することが、厚生省の専門家会議で了承された、ということでしたね。

司会(松山):
 遺伝子治療薬は、2012年に欧州ではじめて承認された。そしていくつかの製品がアメリカやヨーロッパを中心にすでに登場しているということです。

北野:
 問題は、治療薬の価格が高いことですね。

白井:
 どの位するのでしょうか?

北野:
 白血病などのがん治療薬『キムリア』は、アメリカでは1回の投与で5000万円をこえる、といいます。

白井:
 2回投与してもらったら、1億円超ですね。
 価格をきいたら、ショック死する人が出るんじゃないでしょうか(笑)。

司会(松山):
 科学や医療はこの位にして、つぎにポップ・カルチャーにいきましょうか。
 北野さん、なにかご意見はありませんか。

北野:
 マンガ、アニメ、映画、ゲーム、ライトノベル、ポピュラー音楽、それにテレビ。ずらずらと並べてみましたが、これらがポップ・カルチャー(=大衆向けの文化)といわれるものでしょうか。

司会(松山):
 そうですね。
 それに“コスプレ”を入れましょう。なにしろ、『世界コスプレサミット(WCS)』があるくらいですから。
 アメリカをはじめとして、日本のポップ・カルチャーは世界でとても人気がある、といわれます。

白井:
 その世界コスプレサミットって、何ですの?

北野:
 コスプレって、もともとが日本発のポップカルチャーなんですね。だけどいまや、各国でさまざまなコスプレ・イベントが行われている。で、その最高峰が世界コスプレサミットというわけなんです。

白井:
 そんなものがいつ頃できたんです?

司会(松山):
 そんなものって(笑)。
 2003年頃から名古屋で行なわれています。いまや、外務省も応援しているんですね。優勝チームには、外務大臣賞を授与しているほど熱心に。それに、マンガの世界だって、『国際漫画賞』というのがあるんですね。たしか、あのマンガの好きな政治家A氏が創設したと思いますが(笑)。

白井:
 でも外務省までが、どうしてそんなにポップ・カルチャーに肩を入れるんでしょうねぇ。

司会(松山):
 それは、ポップ・カルチャーを入口にして、海外の人びとに日本への理解やその魅力を知ってもらうためなんですね。
 つまり、日本をよく知ってもらうための重要なツール(手段)になっている。そういったら、いいでしょうか。

白井:
 そういえばわたし、前にドラ・・えも・・が“アニメ文化大使”になったって聞きましたよ(笑)。

司会(松山):
 (笑いながら)すばらしい大使ですね。
 さて、笑っているうちに時間がきてしまいました。創造力をつける学びの問題に入る前に。次回は、ひきつづき“学ぶ”に密接な関係のある“創造”をとりあげる予定ですが、そこで改めてとりあげることにしましょう。では、今回(第8回)のセミナーは、これでいったん終わりにします。ありがとうございました。







【まとめ】

 日本という国は、火山帯のうえに乗った小さな島国です。そんな日本は、およそ160年前(幕末)まで、世界地図にのっていませんでした。そう聞いたら日本人は、エッ、そんなバカな。何かのまちがいじゃないのか、って思うでしょうね。そういう人に、以下の話をご紹介しましょう。
 明治の初め頃のことですが、五代友厚(ごだいともあつ)という実業家がいました。彼はもと薩摩藩士です。
 東の渋沢・西の五代
 といわれた人で、あの渋沢栄一にも匹敵(ひってき)するほどの大人物です。
 この友厚(敬称は略します)の父親は、薩摩藩の貿易役人でしたが、友厚の若い頃のある日、家に一枚の地図をもち帰った。世界地図でした。
 それを見て友厚は、大きなショックをうけます。いくら探しても、その世界地図のどこにも日本がのっていないので。
 友厚は父にたずねます。『日本が世界地図にのっていないとは、どういうことですか?』、と。父の答はシンプルなもので、『世界が、日本という国など知らないということだ』というものでした。
 日本はこの頃すでに、世界の列強と条約(不平等条約といわれるものでしたが)をむすび交流していたにもかかわらず、です。
 バカにされている! 友厚は、がま・・ができなかったのでしょうね。おもむろに、世界地図の清国(しんこく)の下の海の中に“島”をかき、『日本』と書きいれたのです。
 その心意気が気に入られたのでしょう。後日談ですが、そのことで友厚は薩摩藩の殿さま(=島津斉彬(なりあきら))から抜擢されることになります。
 さて、それからわずか160年後の現在 – 
 日本は、アメリカ、中国についで世界3位の経済大国といわれるようになっています。並みいるヨーロッパの国々を尻目(しりめ)に。それは日本が開国し、欧米の文化・文明(なかでも科学技術)に追いつけ、追いこせとがんばった成果でしょうね。
 では、そもそも幕府をして、開国にふみきらせたのは何だったのか。
 もとより黒船が来航して日本に開国をせまったことが大きいでしょう。しかし当時は、強硬な攘夷論もありました、そんな中で、幕府・・が開・・国を・・決断・・した・・きっ・・かけ・・は、・・『西・・洋事・・情』・・(福・・沢諭・・吉著・・)と・・いう・・一冊・・の本・・にあった、といわれます。幕府の役人はその本によって、アメリカやヨーロッパの進んだ軍事・経済の実状を知った。で、攘夷(じょうい)は空論だとさとり、開国して国力をつけることのほうが大事だ。そう学ん・・のでしょう。
 学ぶ・・ということは、このように時として、一国の将来を左右するほどの重要な意味をもつものです。

 ところで、セミナーの話題にものぼった“機会の窓”ですが、それは過去のこと。日本はいま、人口の減少・少子化の時代をむかえています。それに対して、中国・インド・ブラジルといった国々は、機会の窓がひらいていてその成長が著しい。日本の未来が危ぶまれるのも当然といっていい現状にあります。
 しかも現在は、第三次産業革命(コンピューターの導入による自動化)をへて第四次産業革命(人工知能による産業の革新)といわれる情報化(IoT)の時代にさしかかっています。イギリスで起きた第一次(蒸気機関)、アメリカ・ドイツで起きた第二次(軽工業から重工業へ)の産業革命についで。
 そんな日本の活路をひらくには、学ぶ・・こと・・をおいて他にない。新しい創造を生みだすためにも。そういい切っても過言ではないと思います。AI、ITの最先端技術の習得、豊富な海洋資源の活用やポップカルチャーの更なる発展。それに、源氏物語のような古典文学の魅力をさらに世界に広めていくためにも、です。

 ところで、学ぶことは、ほんとうにただラクダのような忍耐だけなのでしょうか。いや、よろこびでもあると思うんですね。知識をえて考えるのは、脳にとっても快(こころよ)いはずですから。しかもそのよろこびは、長く -生涯にわたり- 続けれらます。『日本の活路』(1974年)を著(あらわ)した歴史家のトインビー(=アーノルド・J・トインビー)ですが、彼は80歳を越してますます円熟。そして大きな業績を残しています。たの・・しみ・・よろ・・こび・・なくして出来ることではありませんよね。
 ということで、若いみなさんがたには、喜(よろ)こびながら –それが無理ならせめて忍耐のラクダになって- いろいろと学んでほしいですね。海外に行って、外国の気鋭の若者たちと交流する。ちがう分野の人たちと交流して意見を交わす、などもいいでしょうね。おおいに知的欲望をふくらませて、学ぶことを楽しんでほしいと思います。

掲載日:平成31年3月5日




 さて、次回は「創造」を取り上げてみたいと思います。ご期待ください。




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