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第3話 -スポーツ-(運動)



 生きかたのヒントも早いもので、第3回を迎えました。
 今回は、スポーツ(運動)をとり上げてみたいと思います。
 というのは、いま若者のスポーツ離れが顕著だといわれている。
 しかし、他方、若い人たちのからだや心は都市化し機械化された現代社会になじんでおり、適応しているともいわれています。それに、人間以外の動物、たとえば、犬や猫はわざわざラジオ体操をしたり筋トレをしたりしない(笑)。チンパンジーが利口だといっても、健康を考えてジョギングをしているのを見たことはありません。





司会(松山):
 そこで今日は、そもそも現代社会において、『若い人たちにスポーツや運動がほんとうに必要なの?』という疑問を出発点として、からだや心の問題を考えてみたい、と思います。


出席者:

 北野三郎(34歳 弁護士)
 白井恵子(47歳 社長秘書)
 小泉裕一(28歳 ベトナムでラーメン店経営)
 辺見真佐夫(26歳 祖父に編集者(出版社社長)をもつ)

と、今回特別参加の
 米倉遼一(18歳 私立高校2年生)
それに、
 MC(司会)  私・松山遼人

と、いった顔ぶれで話し合いを行ないます。


北野:
 今日は(前回メンバーだった丸山和江さん(落語家の娘)のかわりに)高校生の米倉遼一さんが特別参加をしていますが、なにか理由があるんですか?

司会(松山):
 ええ、じつは米倉さんは、IPS細胞の研究・開発でノーベル賞を受賞した京都大学の山中教授に憧れている青年なんです。人呼んで“山中おたく”といわれている。それで特別に参加をしてもらったんです。

北野:
 (うなずく)

白井:
 でも、今日のテーマの『スポーツ』と、IPS細胞の山中さんとはどうつながるんでしょうか?(笑)

司会(松山):
 それは追々明らかになってきますので、お楽しみにして下さい。それでは、北野さん、口火を切ってご発言をお願いします。

北野:
 わかりました。
 一言でスポーツといっても、『する』『みる』『ささえる』の三通りがあるじゃないですか。
 今回のテーマとしては、「若い人たちにとってスポーツを『する』ことが必要か?」を中心に考える。それでよろしいですか?

司会(松山):
 ええ、そうですね。
 昔と今では、子供の基礎体力や体幹が全然違う。幼いころから外で遊ぶ子が減ってしまったため、今の子はひ弱になったといわれていますのでね。

(白井のほうを向いて)

 白井さんは、社長秘書のお仕事をされていますが、家庭においては二人のお子さんのお母さんでもありますね。

(白井 うなずく)

 母親の目から見て、この問題をどう考えますか?

白井:
 いま、下の娘(こ)は中学1年生ですが、小学生の頃からクラシック・バレエを習っています。ですけど、なにしろお金がかかりまして・・・。

小泉:
 そうでしょう!ぼくは、勉強もきらいだけど、わざわざお金をかけてまでスポーツをやるのはいやだな。

司会(松山):
 小泉さんのご意見は、あとで伺(うかが)うとして、白井さん。
 お金の問題はさておき、バレエが娘さんに及ぼすプラスの面ってありませんか?

白井:
 娘(むすめ)の場合は、ふだん生活している中にあっても、他人(ひと)から『お嬢さんは、ピッと背筋がはっていて姿勢がいいですね』といわれます。

北野:
 バレエのトレーニングを見ていても、胸をはってハードですもんね。

司会(松山):
 それに姿勢がいいのは、健康のためにもよさそうですよね。
 それでは、まず姿勢の問題から入ることにしましょうか。

(ここで米倉が手をあげた)

司会(松山):
 はい、米倉さん。

米倉:
 人って落ち込んだときなど、つい無意識にうなだれたりしています。だけど、それって見た目が悪いだけでなく、健康にもよくないようです。

北野:
 ぼくもそう感じるけど、なにか具体例があるのかな?

米倉:
 ええ、“姿勢と心の関係について”面白い実験があるですよ。ハーバード大学の准教授たちによるものですが。
 それは、一方のグループの人達には背筋(せすじ)をピンと伸ばした姿勢をとってもらい、もう片方のグループには猫背(ねこぜ)の姿勢をとってもらう。そして、2分後に、被験者たちの唾液(だえき)に含まれている『コルチゾール』の値(あたい)を測(はか)るというものです。

司会(松山):
 ほう、で、その結果はどうだったんですか?

米倉:
 猫背グループでは、コルチゾールの値が15パーセント増えた。それに対し、背筋シャッキリグループのほうは、25パーセントその値が減ったというんです。

北野:
 その数値はなにを意味するのだろうか?

米倉:
 コルチゾールというのは、別名ストレスホルモンとも呼ばれているんです。ストレスが大きいとその値が高くなり、ストレスが小さいと数値が小さくなる・・・。
 というわけで、たかだか2分ほどシャキっとした姿勢をとっただけで、ストレスを軽くする効果が確認されたというんです、科学的に。

司会(松山):
 なるほどね。
 ハーバード大で、そういう実験が行われていた。とすると、「たかが姿勢なんて」などと姿勢をバカにしてはいけませんな。

米倉:
 はい。それに姿勢のよしあしは、自律神経の乱れにも関係するようですね。血流の悪くなるのが原因のようですが。

司会(松山):
 そもそも自立神経って、交感神経と副交感神経を交互に働かせているものでしたね。うまくそのバランスをとることによって健康を保つようにしている・・・。たとえば、仕事に向かうときは、交感神経が働いてピリッとする。家でくつろいでいるときなどは、副交感神経が働いてのんびりとリラックスできる、といったように。

北野:
 ところが自律神経が乱れるとそのバランスが崩れ、もろもろの体調不良を招いてしまう。

米倉:
 そうですね。
 からだの面からいえば、肩こり、腰痛のほか、頭痛や吐き気、倦怠感、それに精神面では、イライラ、不安、注意力の低下、不眠、うつなどといった症状が出てくる、といわれています。

白井:
 米倉さんはずいぶんお詳しいですが、医学の勉強でもされているんですか。

米倉:
 はい。医大に行きたいと思ってまして。

司会(松山):
 米倉さんが医学を学んでいるのは、(さきほどちょっとふれましたが)IPS細胞を研究・開発した京都大学の山中教授に憧れてのことだというんですね。あの人も、もとはといえば臨床医でしたから。

白井:
 それでなの(と、納得した様子)。
 でも、米倉さんのような方がこのセミナーにでてきてくれるのは頼もしいかぎりですね。

司会(松山):
 (ドヤ顔で)特別参加してもらった意味がありますでしょう?
 さて、自律神経についてはその位にして、姿勢の良いことやスポーツのメリットについてほかに何か?

白井:
 娘はコンクールに出る機会もけっこうあるんですが、舞台でバレエを踊ることで性格がアグレッシブになりましたね。もともと内気な娘でしたが。

司会(松山):
 ほう、性格が積極的になってきましたか。

白井:
 はい。 そのほか、メリットといえば視野が広くなったことでしょうか。

北野:
 たとえば?

白井:
 日本舞踊(にほんぶよう)を見ても、からだの移動や手の動き、足の運びの良し悪(あ)しがわかるようになったみたいですね。

司会(松山):
 なるほど。からだを使った他の芸能というか芸術などを見る目が肥(こ)えてきた・・・。

白井:
 それに体力はたしかについてきましたね。雨の日などは家の中ではねまわり、うるさくて困るくらいです。

司会(松山):
 お母さんがもてあますほどの体力がついた(笑)・・・。

白井:
 いえ、わたしだけでなく、たぶん自分(娘)でもエネルギーをもてあましていると思いますね。

司会(松山):
 そうですか。

 さて、他ご意見はありませんか?

 (ここで小泉が手をあげた)

司会(松山):
 はい。小泉さん。

小泉:
 いま、白井さんはバレエをすると姿勢がよくなるとか、性格が積極的になったといわれた。それに体力がついたとも。
 だけど、そこそこ繁盛(はんじょう)するラーメン屋をやろうとしたら、それは肉体的にも重労働なんですよ。

白井:
 ラーメン屋さんて、そんなに大変なんですか?

小泉:
 だって、ラーメン屋って自分ひとりで全部やらなくちゃならないんですよ。異様な暑さの厨房のなかで。

白井:
 全部をお一人で?

小泉:
 ええ、寸胴鍋(ずんどうなべ。給食など大量に作るときに使用される鍋)を移動させたり、重い動物の骨を持ち上げて割ったり、油を使い炎をあやつったり、食器洗いから骨掃除までをひとりでこなすんです。

司会(松山):
 湯切(ゆぎ)りっていうのかな、あれなんかは肘(ひじ)に相当の負担がかかるんじゃないですか。

小泉:
 そうです。
 だから、できるだけ肘を使わないで、膝(ひざ)を使いからだ全体でやるようにしているんです。

白井:
 わたし達は、そんなご苦労を知らずに、おいしくいただいているけど(笑)。

小泉:
 けっこう危険な肉体労働で、建設現場のようなハードさがあるんですよ。

司会(松山):
 小泉さんのばあいは、仕事そのものが力仕事なので、あえてお金を払ってまでスポーツなどしないということですかね。 どなたか、小泉さんへの反論はありませんか?

(司会者が出席者のほうを見る)

北野:
 でも、スポーツも大事だと思いますよ。
 わたしの弟は子供のころ、ひどい喘息(ぜんそく)だったんです。それで母が水泳を習わせんですが、それがよかったようで、ずいぶん楽になったといってましたね。

司会(松山):
 なるほど。水泳で喘息の症状が軽くなりましたか。やはりスポーツをやることには、それなりのメリットがあるということですかね?
 メリットについては後でもっと話してもらうとして、マイナス面はどうでしょうか?お金の点はさておいて(笑)

小泉:
 だいぶ前にテレビで放映していたけど、怖いシーンがあったな。

司会(松山):
 どんなシーンでした?

小泉:
 走り幅跳(はばとび)の若い選手が助走していて足首をぽっきり折ったシーンでしたね。

北野:
 そのシーンなら私もテレビで見ました。その選手はただ助走していただけだったんですが、右足の足首よりすこし上の辺りが外側に折れ曲ってしまった・・・。

司会(松山):
 それはいわゆる疲労骨折というやつですな。
 金物(かなもの)には金属疲労というのがあるけれど、骨にも同じようなことが起こる・・・・

北野:
 ええ、オリンピックや国体へ出場するような選手は、つねに猛練習をしていますね。すると骨質がもろくなってしまうことがあるようです。

米倉:
 要は、アスリートなんかが同じ動作をくりかえしトレーニングする。
 すると、からだの一部に断続的に負荷がかかる。そのため骨自体がもろくなってひびが入ったり、骨折につながる、というわけなんです。

白井:
 米倉さんは、アスリートにも詳しいようだけど、ご自分でもなにかスポーツをなさっているんですか?

米倉:
 マラソンで走っています。

司会(松山):
 それに疲労骨折は、栄養不足からくるものもあるようですね。

白井:
 そうなんですか、知らなかったわ。

北野:
 効果的な予防法はないのだろうか?

米倉:
 ストレッチですね。
 ウォーミング・アップやクール・ダウンを行なう際に、ストレッチをとり入れるのがいいと思います。

司会(松山):
 話題がストッレチに及んできました。ではここで、ストレッチというものをとりあげてみましょうか。
 米倉さん、話を続けてください。

米倉:
 はい。
 じゃァ、ストレッチの重要性を語(かた)るのにうってつけのかたがいますので、ご紹介します。
 それは何を隠そう(別に何も隠すものはありませんが(笑))、スキージャンプの競技で今も大活躍中の葛西紀明(かさいのりあき)選手です。

北野:
 知っていますよ。「レジェンド」(伝説)って呼ばれている選手ですよね。

米倉:
 (うなずく)
 スキージャンプ競技って、(ご存知だと思いますが)より遠くに飛ぶことを競い合うスポーツなんですね。
 で、競馬の選手と同じで、体重は軽いほど有利。しかし、パワーも持っていないとダメなんです。力強く踏み切ってジャンプするために。

北野:
 だけど、パワーを得るためには筋肉を大きくしないといけない。しかし、筋肉は重いので大きくすると体重は増えてしまう。 その相反(あいはん)するふたつを両立させるのは、たいへんだろうなぁ。 

米倉:
 そのとおりなんです。
 それで葛西さんが目指したのは、“バネの利いた細マッチョ”なからだづくりだったんですね。

辺見:
 あの人はそういう理想のからだをつくり、それを40代の今もキープしているんですよね。
 ぼくのおじいちゃんはヘミングウェーが好きで、今もジムに通っているんです。でも、ちっともおなかのダブダブがとれないって嘆(なげ)いていたなァ。

 (一同どっと笑う) 

米倉:
 大切なのは、“しなやかさ”と、“柔らかさ“を保つこと。で、葛西さんが取り組んでいるのが、オリジナルのストレッチだというんです。

司会(松山):
 去年(‘17年)そのストレッチについての本が出版されました、〇学館から。
 それによると、あの選手は2014年のソチ五輪でスキージャンプ史上最年長の五輪メダリスト(銀メダル)になっている。

米倉:
 そのほかにも数々の記録を達成しています。
 だけど、驚くべきは、その記録の多くが30代半ばを過ぎてからのもの、ということなんですね。

白井:
 わたしと同年代のかたが、それも世界トップレベルのアスリートたちと技を競い合っているなんて凄(すご)いわァ。

司会(松山):
 ところで白井さん、10代の頃とくらべてからだが硬くなっていませんか。

白井:
 硬くなっています。カッチカチですね(笑)。

米倉:
 その本の中で彼は、「凝(こ)り固(かた)まってしまった筋肉は、若さの大敵。その固い筋肉をストレッチで伸ばすことがアンチエイジングにつながる」。そういって8つのストレッチを紹介しています。

司会(松山):
 面白いことに、その8つのうち半分は、私のやっている〇リーのブートキャンプのパフォーマンスと同じなんですよ。

北野:
 そうなんですか。
 では、司会者のからだもしなやかで柔らかい?
司会(松山):
 とんでもない。ゴッチゴチです(笑)、筋トレでなまじ筋肉がついているばかりに。今日から私も、もっとストレッチをやらないといけないな。反省しています。

米倉:
 デスクワークやスマホをいじっていると、どうしても前かがみになるじゃないですか。そんなときは、ときおり(作業の手をとめて)からだを起す。そして肩甲骨(けんこうこつ)をくっつけるように両腕を後方にもっていき、のぞけるように胸をはる・・・。

 (そういいながら米倉が実演してみせた。一同マネをする)

司会(松山):
 あァ、ほんとうにいい気持ちだなァ。

 (3回ほどくり返してから、おもむろに)

 そうだ、さっき疲労骨折は栄養不足からくるものもあるといったけど、骨の強度や弾力、耐性をつけるために、たんぱく質(に含まれるコラーゲン)や、ミネラル(たとえばカルシウム・リン・マグネシウム)などを十分にとらないといけないですね。

米倉:
 そうですね。それにからだをほぐすには入浴もいいですね。私なんか夏場のトレーニングでも風呂(湯舟)に入り、筋肉をほぐしてから筋トレ・エアロビなどをやるようにしています。

白井:
 筋トレやエアロビもなさっているんですか。

米倉:
 ええ。それにマラソンもやっています。

司会(松山):
 エアロビといえば、私も空手の動きをとりいれた〇リーのブート・キャンプというやつですが、やっています。

北野:
 筋トレのほかに、エアロビも?

司会(松山):
 ええ。もっともエアロビではいちどひどい目に合いましたが。

白井:
 どうかなさったんですか?

司会(松山):
 だいぶ前の暑い夏の日に、サウナ・スーツを着用してブート・キャンプを2時間ほどがんばったんです。そしたら、尿酸値が上って痛風になっちゃった…(苦(に)が笑)。

白井:
 まァ、あれは痛いそうですね。

司会(松山):
 ええ。痛くて動けないんですよ、発作(ほっさ)がおきると。
 もっと健康になろうとしてからだを壊(こわ)してしまった。
 なんともおそまつな話なんですが・・・。

白井:
 “過ぎたるはおよばざるが如(ごと)し”ですね。で、今はおかげん、いかがなんですか

司会(松山):
 ええ、今はもう大丈夫です。低脂肪牛乳や尿酸値を下げるヨーグルト(Pa-3)を飲んでいるお陰で(笑)
 さて、私の失敗談はその位にして、ここでアレキシス・カレルという人の“運動についての考え方”に耳を傾けてみましょう。大切なことをいっていますので。

白井:
 エライかたなんですか、そのカレルって人は?

司会(松山):
 この人は昔(1912年)、ノーベル生理学・医学賞をとった学者です。『人間 この未知なるもの』という本を書いているんですが、その中でこう言っているんです。「栄養をつかさどる諸器官と、からだを長時間の努力に耐えさせる働きをする諸器官を強化したいなら(専門的な(一つの)スポーツより)もっと多様な運動が必要である」、と。

北野:
 なるほど、なんとなくわかる気がしますね。

司会(松山):
 ほう、どういうふうにわかったの?(笑)

北野:
 現代の人びとの生活は、住みごこちのいい家や文明の利器のお陰でとても楽になった。食べ物だって、わざわざ野山に狩りに行かなくたって居ながらにしてなんでも食べられる。だけど、その一方で、すっかりからだも心もなまってしまった。
 だから、近代文明が発達する前のように、野性的にからだの全てを使う動き(スポーツ)が必要だ、といっているのだと思いますね。

辺見:
 つまり、山にのぼり、海で泳ぎ、でこぼこ道を走ったり、ときに取っ組み合いをする。そういう骨や筋肉、呼吸や血流といったからだ全体を使う運動が、現代人には求められているということではないかな。

米倉:
 そう思いますね、ぼくも。

司会(松山):
 そういうことでしょうね。
 カレルはからだに良い運動というのは、ひとつはからだの栄養をつかさどる諸器官を強化するようなもの。もうひとつは、体力や持久力をつかさどる諸器官を強化するような運動、といっている。
 しかし、このふたつの条件をみたすには、とうてい一つの(専門化された)スポーツでは無理ですね。
 それでいろいろ(=多様)な運動が必要だといっているわけです。

北野:
 すると、筋トレだけやってもダメということかな。

司会(松山):
 ダメでしょうね。カレルは一つの運動だけではかえって危険だとさえいっています。

米倉:
 筋トレのほか心肺機能を高めるエアロビやマラソン。それに呼吸法であるとか、ストレッチやヨガといったもの。つまり内臓を含め骨や筋肉、血管、心臓、肺、脳、脊髄、それに精神など全身の機能を強化する運動をやるのが良いと思います。

司会(松山):
 (うなずいて)

 運動は体力を向上させたり、健康を保つのにも必要だ。しかし、からだによい運動というのは、自分のからだに合ったもの。しかも、ひとつでなくいろいろな動きのあるもの(=多様な運動)がおすすめである。そういうことになるのでしょう。

辺見:
 そう思います。

米倉:
 だけどそれは、精神の面についてもいえると思いますね。

司会(松山):
 というと?

米倉:
 今の若い人たちって、暖衣飽食(だんいほうしょく)して朝から晩までスマホをいじっていますよね。自分もそうですけど(笑)
 で、すこし辛(つら)いことがあると、そこから逃げ出したり鬱(うつ)になってしまう・・・。

司会(松山):
 つまり、疲れることや悩みごとに対する体力や抵抗力が弱まってしまっている、ということかな。
 としたら?

北野:
 やっぱり、可愛い子には旅をさせよ、ということでしょうね。スポーツや運動は、やり方次第でりっぱな旅の一つになると思います。

米倉:
 スポーツって、ふつう肉体的・精神的にかなりの努力を強いられるものでしょう。で、止めないで続けることによって、心身ともに鍛(きた)えられることになるわけですね。

辺見:
 それも、自分の意志でやらないと。 もっとも、ぼくのおじいちゃんは自分の意志でやっているのに、ちっともおなかが引っこまない(笑)・・・。

(ここで米倉が手をあげた)

司会(松山):
 はい。米倉さん、どうぞ。

米倉:
 さきほどスポーツは、ときに危険を伴(ともな)うという話がでました。だけど、そういったリスクを物ともしないとんでもない父娘がいます。あの娘(こ)のやっているのは、いわゆる「可愛い子には旅」なんて、そんな生やさしいものではないですね。

司会(松山):
 そうですか。それはどんな?

米倉:
 先日テレビでやっていたんですが、東大出のエリートお父さんが6歳の娘さんとがっちりスクラムを組んで、ゴルフ世界一を達成したというんです。それも二連覇したということでした。

白井:
 ああ、それなら私も見ました。たしか7月28日(土)夕方からのTBSテレビでしたよ。
 須藤弥勒(みろく)という、5歳のとき世界一のゴルファーになった女の子さんですよね。

司会(松山):
 あのテレビで、弥勒ちゃんのお父さんはいっていましたね。「あるとき娘のゴルフの才能にピンとくるものがあった」。それで「この娘(こ)のその才能をのばしてやらなかったら、自分の臨終のとき後悔が残ると思った」、と。

北野:
 司会者も、あのテレビをご覧になった?

司会(松山):
 ええ(笑)。幼い娘さんの才能を見抜いたお父さん。すごい人だな。あのお父さんって、それまではたしなむ程度のゴルフだった。ところが東大出だけあって、それからというもの本格的にゴルフの研究をはじめた・・・。

米倉:
 弥勒ちゃんに「お前のいいところは、集中力をたやさないところだ」と指導して、世界一を二連覇させたというわけです。
 このケースのばあいなんか、(お父さんもそうでしょうが)幼い女の子の人生をかけた勝負だった、ともいえるわけです。

北野:
 あのお父さんは知っていた筈なんですよ。小さな子に過酷なトレーニングをさせるとからだに歪(ひずみ)を生じるおそれがある、それは健康にとってマイナスだということも。しかし、リスクをおかしてでも世界一を目指す道を選択し、猛練習をさせた・・・。

米倉:
 だけど、こういうケースって外国では珍しくないようですね。

白井:
 そうなんですか。いろんな意味で相当なリスクがあるでしょうに。

司会(松山):
 外国では珍しくないといえば、テニスのマリア・シャラポア(敬称は略します)が、近ごろ自伝を出しました。
 あの本は読みましたか?

 (白井は首を横にふり、北野と米倉の二人が縦(たて)にふった)

司会(松山):
 では、北野さん、あの本を読んでどう感じたかな?

北野:
 シャラポアのケースも、弥勒ちゃんの場合ととてもよく似ていると思いましたね。
 父親が幼い娘にテニスの並はずれた能力のあるのを見抜いた。そして、すべてを捨ててその娘の将来にかけ、テニスに関するあらゆる本を読み漁(あさ)った・・・。

米倉:
 シャラポアは、のちにウインブルドンで行われた全英テニス選手権大会、全米オープン、それに全豪オープンでの優勝と、グランド・スラムを手にしています。

北野:
 それも、もとはといえば、父親が幼いシャラポアを連れて崩壊しつつあったソ連を脱出。アメリカにわたって、テニスで成功するのにベストの環境をつくっていった。そういった、すべてを投げうった父親の献身的な協力があったからこそでしょうね。

司会(松山):
 もちろん、そうでしょう。
 ただ、あの自伝の中でシャラポアは、「子供のころからテニスが大好きだった。ボールがガットに当たる感触、打つ、体をかけめぐる興奮~」ということを話しています。父娘の見事な連携プレイもさることながら、シャラポアの熱烈なテニス好き。それが成功に導いた点も見逃(みのが)せないな。

米倉:
 まさに“好きこそ物の上手(じょうず)なれ”ですね。もっとも、シャラポアはレアなケースでしょうね。彼女がまだ6歳のころ、父親がモスクワのテニスクリニックに連れて行った。するとそこには娘が必ず世界一になると信じこんでいる父親がたくさんいた、といっていますから。

司会(松山):
 そうですね。須藤弥勒ちゃんやマリア・シャラポアのようなケースは、ごくまれな成功例だと思います。
 それに、シャラポアは成長していく中で知りますね。「テニスは単にスポーツというだけでない。・・・・これはビジネスだ。お金なのだ」と。

北野:
 しかし、ここまでくると、もはや子供のやるゴルフといっても単なるスポーツなんていってられないですね。
 あの娘さんの人生を決めるモノサシ、つまり価値観・人生観の問題になってくる・・・。

白井:
 でも私は、娘にバレエで世界一なってほしいとは思わないですね。

司会(松山):
 それはどうしてでしょう?

白井:
 やはり、うまくいかなかったときのことを考えると、あんまり冒険をさせたくない・・・・。

司会(松山):
 子供の将来をダメにしてしまうリスクは避けて、安全な道を歩(あゆ)ませたい。そういう気持ちが強いですか。

白井:
 そうですね。

司会(松山):
 なるほど、このセミナーの第1回のテーマ『仕事』のときと同じご意見ですね。わかりました。
 さて、東京オリンピックが2年後に迫っていますね。
 日本がはじめてオリンピック大会に参加したのは、ストックホルムで開催された第5回からでした。

北野:
 その立役者が、講道館柔道を創始した嘉納治五郎とういうのも面白いですね。

辺見:
 あの人は1909年頃でしたか、国際オリンピック委員会(IOC)の委員になっていますね。

司会(松山):
 記録をみたら、アジア初の委員でした。
 それにしても、最近のアマ・レス、アメ・フトやアマチュア・ボクシング界の不祥事は困ったものですね。

北野:
 クーベルタン男爵の理想としたフェアープレイの精神。それを指導すべき組織のトップや監督が真逆(まぎゃく)のことをやっているのですからね。

司会(松山):
 しかし、その件は、(単にフェアプレー精神の問題にとどまらず)ガバナンスやコンプライアンスといった別次元の大きな問題を含んでいます。
 そこで、ここではその問題には立ち入らず、本日のメイン・テーマに話を戻したいと思います。
 米倉さん、改(あらた)めてうかがいますね。「からだと心にとって望ましいスポーツとはどういうものか?」 どうでしょうか?

米倉:
 はい。
 スポーツといっても、その種類はじつにたくさんありますよね。球技ひとつとってもそうです。野球やサッカーのように陸上でやるものもあれば、水球のように水の中で行なうものもある。
 卓球やテニスのように個人競技もあれば、バレーボールのように団体競技もある、というわけです。でも、そもそも球技の苦手(にがて)な人だっている筈です。

北野:
 といって、カレルのいうようにいろいろやればいいのだろうが、実際にはなかなかそうもいかない。

米倉:
 ええ。すると望ましい(ベスト)のは、その人にとって熱中できるほど大好きな競技。その一言(ひとこと)に尽きるのではないかと思いますね。

司会(松山):
 そうでしょうねェ。なかには気の弱い人だっている。そういう人がボクシングやキックボクシングのようなきつい格闘技をやれといわれたって、物になる筈がない・・・。

辺見:
 私だって臆病(おくびょう)だから、尻尾(しっぽ)をまいて逃げだしますね(笑)。

司会(松山):
 いまの米倉さんの意見に異論のある人はいませんか?

(だれも手をあげない)

司会(松山):
 みんなが同じ意見のようですね。
 では、米倉さん。話を続けてください。

米倉:
 望ましいスポーツのあり方といえば、ベストを体現している人がいます。それも有名なかたで。

白井:
 もったいぶらないで早く言ってくださいよ。
 その人って、IPS細胞の山中教授でしょう?

米倉:
 バレましたか(笑)

白井:
 だって、このセミナーのはじめに司会者が、あなたのことを“山中おたく”って紹介していましたもの。でも、どういう理由で学者の山中先生がスポーツのベストを体現しているというのかしら?

米倉:
 日本でもこれまでにノーベル賞を受賞した人は、かなりの数にのっぼっていますよね。ですが、その中でも山中教授のやっていることは、ある意味で群を抜いていると思うんです。

北野:
 というと?

米倉:
 山中先生にとっては、ノーベル賞の受賞は(研究のゴールではなく)単に出発点にすぎない。現在も、IPS細胞を多方面にわたって実用化すべく活動中です。500人の研究員をかかえた研究所の所長さんとして。

北野:
 それは知っているけど・・・、それが?

米倉:
 その研究・開発資金を捻出するために先生は、IPS基金への寄付をつのってマラソン大会へも出場しているんです。

北野:
 知っています。2012年3月の京都マラソンでは、1000万円の以上の寄付が集まったようでしたね。

米倉:
 ええ。
 昨年(’17年)の京都マラソンでは、54歳にして3時間27分45秒。今年(’18年)の別府大分マラソン大会では、3時間25分20秒と、55歳で自己ベストを更新しています。

白井:
 たしかに、それはすごいことですね。ふつうの人には真似のできることではないでしょうに。

米倉:
 そう思います。
 でも、それを可能にしているのは、山中先生の子供の頃からの長いスポーツ歴だと思うんです。

司会(松山):
 そうでしょうね。とても一朝一夕(いっちょういっせき)に出来ることではない。
 実際に山中教授は、中学から高校を経て大学2年まで柔道をやっていた。高校時代には柔道二段を取得していますものね。 やはり、スポーツには、“根気”と“継続“が大切だということでしょうか。

(そういって、あいづちを求めるように米倉のほうに目を向けた)

米倉:
 (うなずく)
 そして、大学3年からはラグビーをやっているんですが、柔道やラグビーで10回以上も骨折をしています。それ自体、いかに山中先生が真剣に取り組んできたかを物語っていると思うんです。

北野:
 まあ、そうでしょうね。

司会(松山):
 あの人は、ケガが日常茶飯(にちじょうさはん)だったので、整形外科医の道へ進んだということでしたね。

米倉:
 そうですね。そして、奈良先端大学時代は、毎朝構内をジョギング。京都大学に移ってからも、昼休みに30分ほど走るのを日課にしたというんです。

司会(松山):
 “天才は最大の根気”というけれど、山中教授は今でもマラソンを続けながら、IPS細胞の実用化に向けて全力で走っている。それはスポーツが、もっとも良い形で人(研究者)の心身をサポートしている姿なのだ。米倉さんはそういいたいのでしょう?

米倉:
 ええ、そうなんです。山中先生の中に、スポーツのありかたの理想形を見る気がしていますので。

司会(松山):
 では、ひとつ読者のみなさんも、山中教授を見習ってマラソンにでもチャレンジしてみたらどうでしょうか。
 えっ?マラソンはキツすぎる?
 それならば、まずはウォーキングかジョギングといったところから始めてみてもいいでしょうね。
 用心は、人生を安泰にするかもしれませんが、必ずしも幸せをもたらすとは限りません。いや、用心がすぎて幸せをつかみそこなうことだってあるでしょう。
 山中教授の生きざまには、チャレンジ精神をもってことに当たる。そういう積極的な心構えがひしひしと感じられて好感がもてます。
 もっとも、ある人にぴったりと合うクツも他の人には窮屈(きゅうくつ)で入らない、ということもあります。自分の好きなクツ、それも自分の身(み)の丈(たけ)に合った素敵なクツが手に入るといいですね。

 さて、今回のテーマも大きなものでした。まだまだ論じ足りないと、皆さんの顔に書いてあります。しかし、残念ながら予定時間がきてしまいましたので、ひとまずこれをもって終了といたします。ご清聴ありがとうございました。  







【まとめ】

 今日のセミナー(第3回)では、スポーツ(運動)をとりあげました。それは、つぎの理由からです。

 現代の人びとは、空調のきいた快適な家に住んでいる。移動には飛行機や新幹線・電車、それにクルマやバイク。海なら船もあります。

 食糧だって、通販や出前(でまえ)を頼めば、居ながらにして手に入るし、夜中におなかが空いてもコンビニだって開(あ)いています。

 そういう都市化された生活のなかで暮らしている若い人たちは、あえてきついスポーツや運動をやらなくても生きていけるわけです。それにスポーツや運動には、それなりのリスクがあることも否定できません。“健康のために”と思ってはじめたジョギングで、命を落す。あるいは膝をこわす。そういった危険も潜(ひそ)んでいるわけですね。

 現に、“ジョギング”を考案したジム・フィックスは自分の開発したジョギングの最中に50代の若さで亡くなっています。1984年7月のことでした。

 それでもなお、スポーツは必要なのかがいま問われているからです。

 今日のセミナーでは、出席者のかたのお子さんがクラシックバレエをやっていることから、まず“姿勢”の問題に入りました。そのあと、バレエ(のお陰)でもてあますほどの体力がついたことなど、その効用についての話がありました。

 それに対し、スポーツをやらない派からは、仕事(ラーメン店経営)で毎日重労働をしているので、わざわざスポーツをやる必要はない。そんな意見もありました。

 で、アレキシス・カレルですが、彼は心身を鍛えるべしといっています。それも(ひとつでなく)いろいろな多様な運動をやることによって。

 また、精神を鍛(きた)えて強くするには、自らの意志でトレーニングに取り組まねばならない。そういう意見もありました。どれもが示唆(しさ)に富(と)む大事なことだと思います。

 そして、京都大・山中教授の話題へ。

 その山中教授ですが、もとはといえば、整形外科のお医者さんです。臨床医として苦労を重ねた末に研究者へと転身し、ノーベル賞までとりました。

 しかし、賞賛に値するのは、“受賞後の生きかた”の方にこそあると思うのです。大勢の研究員を牽引(けんいん)して、今もみずから走っています。IPS細胞の実用化に向けて。

 彼をそこまで駆(か)りたてるものは、パーキンソン病などの難病に苦しむ人びとの救済にある、といいます。過去にあまり例を見ない生き方の人だと高く評価してよいのではないでしょうか。

 カレルは、欠陥人間の多いなかで、潜在能力をすべて活用し“完全に発達した人”もいる、といっていますが、まるで山中教授のことをいっているようですね(もちろん年代が違うので、そんなことはありませんが)。

 スポーツ(運動)と人の生きかたのかかわりを考えるとき、彼が一つの望ましい型を示しているのはまちがいないと思います。自分の意志で、不屈の心をもった強靭(きょうじん)なからだをつくりながら、人類の幸せに大きく貢献しているのですから。

 ところで、運動の効果についてですが、耳寄(みみよ)りな話があります。

 ハーバード大・医学部の准教授にジョンJ.レイティという医学博士がいます。この人は、全米ベスト・ドクターの一人とまで言われている人です。

 その人が著書の中で、『運動は頭のはたらきをベストにする唯一・最強の手段である』という意味のことを述べています。それも多くの実例をひきながら。運動で爽快な気分になるのは、心臓から血流がさかんに送りだされ、脳がベストの状態になるからだとも。

 みなさんも、若いうちは大いに心身を鍛えてスポーツ(運動)を自分に習慣づけてみませんか。

 そして、年功(ねんこう)を積みながらも世の中とかかわりをもつ。そしてどんな運動でもいいからとにかくからだを動かす、闘(たたか)えるからだをキープするために。人生とは、闘いの連続なのですから。

掲載日:平成30年8月21日




 さて、次回は「クルマ」を取り上げてみようと思いますので、ご期待ください。






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