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セミナー


第1話 -仕事-



第1回は、『仕事』について考えます。


出席者:

北野三郎(34歳 弁護士)
白井恵子(47歳 社長秘書)
丸山和江(62歳 主婦で落語家の娘)
(特別参加)小泉裕一 (ベトナムでラーメン店経営)
MC(司会)私・松山遼人


といった顔ぶれで、話し合いを行ないます。


仕事のことで悩んでいる方は、このセミナーのなかから解決の糸口が見つかるといいですね。





司会(松山):
 では、さっそく始めましょう。近ごろ、仕事がつまらないと悩んでいる若い人が多いと聞きますので、その辺りから入りましょう。北野さんは、この『仕事に満足できない』という問題をどう考えますか。

北野:
 たしかに20代の人たちは、ある人(ブロガー)に言わせると7割がそう思っている、ということですね。収入を得るためにとりあえず始めた仕事っていうのは、たぶんあまり面白くないでしょうね。仕事を安易に選びすぎているのではないかな。その世界でずっとやってみたいというものをつかみださないと・・・。

司会(松山):
 北野さんはいま弁護士をしていますね。いつ頃から目標を弁護士にしたのかな?

北野:
 高校生のときからです。ですから、仕事が今更つまらないとは思いません。かといって、あまり楽しいわけでもないですが。

司会(松山):
 人さまのもめごとを解決する仕事が楽しくってしかたない筈ないですものね。じゃァ、転職を考えたことはないですか?

北野:
 それはありません。いろいろ考えたり、調べたりして価値があるとおもった仕事ですし、やりがいを感じているので・・・。

司会(松山):
  価値・・やりがい・・・・ですか。すると、20代の皆さんもやりがいがのある仕事、つまりその道でずっと生きていきたいとおもえるような仕事を探しだす。これがキーポイントですかね。

丸山:
 ですけどね、わたしの縁戚にあたる男の子(18歳)なんか、「自分のやりたいことが何なのか分からない。」なんていってるんですよ。そういう場合はどうしたらいいんでしょうか?

北野:
 その彼には、ああいう人になりたいという憧(あこが)れの人なんかはいないんですか。

丸山:
 どうもいないみたいですね。

司会(松山):
 だいぶ古い話ですが、ブルース・リーという香港の俳優がいました。カンフーのつかい手でね。映画“燃えよドラゴン”でいちやく人気がでた人なんです。のちにそのブルース・リーに憧れて、ずいぶん大勢のプロ格闘家が誕生したんですね。

北野:
 ジャンルは別として、自分もああなりたいと思えるような人があらわれるといい、と思うんですが・・・。

(ここで小泉君が手を挙げる)

司会(松山):
 はい、小泉くん。

小泉:
 じつは、ぼくはその口かもしれません。

司会(松山):
 特別参加の小泉さんは、いま日本に一時帰国をしているけど、ベトナムでラーメン屋を開業しているんですよね。

小泉:
 はい。僕はラーメン店の経営なんてはじめてですし、語学もだめ。まだお店をもって半年ですけど、いつつぶれるかひやひやもんです。

司会(松山):
 外国で慣れない仕事を始めるとは、思い切ったことをやりましたねェ。リスクが大きいし、ストレスもたいへんじゃァないんですか?

小泉:
 ええ。だけど、自分で決めたことなので、毎日がワクワクものですね。

司会(松山):
 きっかけは何だったんですか。

小泉:
 あるとき、たまたま寝ころんでブログを眺めていたんです。そしたら、タイが気に入って、そこに住んでブロガーで暮らしているMさんだとか、カンボジアでかごの販売事業を始めたIさん。会計士をやめてアフリカでの起業を目指しているNさんといった人たちの生きかたを知ったんです。それでぼくも外国でなにかやってみるかと。

司会(松山):
 で、ベトナムへ渡った。

小泉:
 はい。

司会(松山):
 どうしてベトナムを選んだんですか。

小泉:
 知り合いに、あの国で和食店をやっている人がいたもので・・・。

司会(松山):
 ラーメン屋をやろうと思ったのは?

小泉:
 ラーメンが大好きだったから、これなら続けられるかなと思って。

司会(松山):
 小泉さんの、好きなラーメンで店をもつという生きかたですが、白井さんはどうお考えですか?

白井:
 わたしは社長秘書をしていますが、家庭では二児の母親でもあるんです。上の男の子はいま大学生ですが、外国でラーメン店をやるより、やはり大手企業に就職して欲しいですね。

司会(松山):
 それはどうしてでしょう?

白井:
 やはり将来、安定した生活を送ってほしいと思いますので。世の母親の多くは、そうだと思いますけれど。

北野:
 そういえば先日の夕刊紙に、「合コンでの人気ナンバーワンは公務員」という記事がのっていました。2位はANAとならんで地方公務員、4位がトヨタ自動車でしたね。

司会(松山):
 イギリス人でビジネス学校の教授をしている人がこう言っています。「日本では優秀な若者が安定を望んで、公務員とか、大企業に勤めたがる傾向がある」と。白井さんの考え方は、まさに日本人の多数派を代表した考え方でしょうか。

北野:
 そうでしょうね。

司会(松山):
 小泉さん、あなたのそういう生きかたをお母さんはどうご覧になっているんですか。

小泉:
 僕は大学を中退したんですが、母は白井さんと同じで、大学をキチンと出て会社に勤めてほしかったようですね。もっともそれは、僕がときどき母に店の運転資金としてお金を援助してもらっているせいもあると思いますが(笑)。

司会(松山):
 うーん。お母さんからすれば、小泉さんが外国でラーメン店をやっているのが、危なっかしくて見ていられないんでしょうかね。

小泉:
 たぶん、そうだと思います。だけど、僕が憧れているのは、オーストラリアで和食店を経営してリッチになったAさんという人なんですよ。Aさんはシドニーや首都キャンベラ、それにニュージーランドにもお店をもち、現地で裕福な暮らしをしているんです。

司会(松山):
 かつてロッキー青木という日本の実業家がいてね。もう亡くなりましたが、海外で鉄板焼きステーキのレストランチェーン店をやって成功した。私は、何度かハワイ・オアフ島のダウンタウンにある彼の店に行ったことがあるけど、肉を焼く料理人のパフォーマンスが面白くてね。それが売りだった、、、。さしずめそのAさんは、和食版ロッキー青木といったところかな。

小泉:
 それってベニハ〇というお店で、東京にもありますね。

司会(松山):
 コレド日本橋の近くにね。

小泉:
 Aさんは、自分の和食店の料理人にのれん分けをして、お店をもたせてあげたりもしているんですよ。立派でしょ。僕もそうなりたいんですよ。

司会(松山):
 なるほどね。お金のやりくりは大変だし、言葉も不自由だけど、そういった目標というか夢がある。それで小泉さんの目はキラキラしているのかな。丸山さんは、小泉さんのような生きかたをどう思いますか。

丸山:
 わたしの父は噺家(はなしか)でしたが、いつも『人間はただ生活して生きているだけが能じゃない』っていっていましたね。やっぱり『自分のやりたいことをやるのが人間じゃないか』って。

司会(松山):
 お父さんはもうお亡なりになったが、有名な落語家のお師匠さんでしたね。

丸山:
 はい。父は頑固な人でして、仮にだれかに、『いま会社の社長にしてやるから噺家(はなしか)をよせっていわれても、あたしゃいやだってんです』といっていました。たとえ、『乞食(こじき)になって、大道へ立ってでも噺(はなし)をする』って。小泉さんの生きかたもよろしいんじゃないでしょうか。

司会(松山):
 お父さんは、名人といわれた人でしたね。よほど芸に精進された落語家さんだったんでしょう。

丸山:
 父は『基本をしっかり叩(たた)き込み、その上に自分なりのものを築き上げなければ芸人は一人前にはなれない』、というのが口ぐせでした。

司会(松山):
 それは、何をやるにもいえることでしょうね。サラリーマンだって同じではないでしょうか。白井さん、この点はどう思いますか?

白井:
 わたしの主人は、医薬品をあつかう会社に勤めています。あまり仕事のことを口に出していう人ではないんですが、入社したてのころは、それは大変でしたね。医薬品の名前や効能、それに成分といった初歩的なことを覚えるだけでも四苦八苦していたのを覚えています。会社だって、勝ち残るためにしのぎを削(けず)っていますから。先ほどのお話しに、いまの若い人には『仕事がつまらない』という人が多いとありましたでしょ。でも、それは馬鹿になれない。つまり、馬鹿になって基本をマスターしようという気概(きがい)をもてない人が増えている。そんな気もしますが・・・。

司会(松山):
 それは集中力ということにもつながりますね。その点について、弁護士の北野さん。何かご意見をお聞かせください。

北野:
 私たちの場合、まず司法試験に合格をしないとはじまりません。ですが、あの試験にパスするには、机の上に積み上げた法律書が天井に届くくらいの量を読みこまないとならない。でも、六法全書や法律専門書なんて、およそ面白くないんですよ。とくにはじめの頃は。

司会(松山):
 そうですね。私も北野さんと同じ仕事をやっているので、よく分かります。はじめは居眠りばかりでしたもの。でも、そのつまらない作業を延々(えんえん)とやっていると、次々に疑問がでてくる。どうしてそうなるのかっていうのが。で、その理由を考え答えを見つけようとする。これはミステリーを解くようなものです。すると、その先に面白い世界が見えてくる。理論の世界といったらいいのかな。

北野:
 えゝ。法の理屈が分かってくると、無味乾燥に思えたものが、そうではなくなる。松山先生はそれがエスカレートして学位(博士号)をとられた・・・。

司会(松山):
 私のことはさておくとして(笑)、つまらない事柄をなんとか自分のものにするにはどうしたらいいでしょうか。

(ここで丸山さんが挙手)

司会(松山):
 はいっ、丸山さん。

丸山:
 わたしの父は、『若いときは、貧乏のほうがいい』ってよくいっていましたね。どうしてかと尋(たず)ねましたら、『芸なんて、猿にものを教えこむのと同じ』だというんです。

司会(松山):
 ほう、猿がでてきましたか(笑)。で、どういうことなんです?

丸山:
 『餌(えさ)を先に食(く)わしちゃうと、猿は芸をおぼえない』って。つまり『猿は、餌を食いたい一心で、一生懸命に芸をおぼえるんだ』というんです。

司会(松山):
 たしかに猿は、一つ芸をおぼえたところで餌をもらうと、また餌をもらおうとしてせっせとほかの芸をおぼえていきますね。ボクシングの選手もハングリー精神がないとダメだっていいますが、理屈は同じことなんでしょうね。もし、あり余る富を持っていたら、なにも好んで殴られる仕事なんかしなくたっていいわけですから。

北野:
 そう思いますね。

司会(松山):
 そうそう。ハングリーといえば、ある作曲家の話を思いだします。17歳で歌手になろうとおもって上京したとき、お金がないからたった30円の立ち食いソバすら食べられなかった。で、ある日気が付いたら新宿駅のトイレの床。貧血で倒れたんだけど、だれも声一つかけてくれなかった、というんですね。で、その人は、「負けるもんか。俺は絶対スター歌手になってやる!」って思ったそうです。

北野:
 その人って、岡千○という作曲家ではないですか。

司会(松山):
 よくわかったね。そのとおりです。

北野:
 私も最近なにかでその記事を読みましたから。たしか演歌の“大御所(おおごしょ)”って紹介されていました。

司会(松山):
 極貧(ごくひん)が岡少年をふるいたたせ成功にみちびいたケースでしょうね。

北野:
 ええ、そう思います。ただ、今の若い世代の多くは親の愛情にめぐまれていて、ハングリーな気持がもてない。それで辛(つら)いおもいまでして、嫌なことや、つまらないことなんかを頑張ろうという気になれない。そういう面も多分にあるだろうとおもいます。

司会(松山):
 そうですね。だから、職場なんかできびしい状況におかれると、ふるいたつどころか、落ちこんでうつになってしまう。そういったケースも近ごろは少なくないんですね。

北野:
 ええ、マスコミにもよくパワハラとかセクハラといった言葉が登場してきますが、上司の人たちも部下の指導には細心の注意を求められる時代になっています。

司会(松山):
 すると、若者がダメなのは親が甘やかしているせいだということになりそうですが。丸山さん、この点はいかがでしょうか。

丸山:
 そういう面もないとはいえないと思いますねェ。何年か前ですが、ある大女優の息子(当時18歳)さんが薬物に手を出し逮捕された事件がありましたね。高校は退学になり、マスコミが大騒ぎしました。

司会(松山):
 ああ、例のコマーシャルによく出ていた有名女優の次男坊の件ですか。

丸山:
 (うなずいて)あの時、母である女優さんの行なった記者会見で、『次男のこづかいは月50万円』などと話し、世間からバッシングをうけました。高校生に毎月50万円のおこづかいなんて、とんでもないって。

司会(松山):
 そうでしたね。薬物による逮捕も一度ならず二度、三度とつづいた・・・。

丸山:
 そのほかにも、芸能人の息子や娘さんは、ときどき事件を起こしていますね。その原因のひとつは、お金の与えすぎじゃぁないでしょうか。テレビでそんなニュースを耳にすると、わたしは、『若いときは、貧乏のほうがいい』といっていた父の言葉を思い出すんです。

北野:
 丸山さんのおっしゃることももっともで、一面の真理だと思うんです。だけど、親が子供のためにお金をふんだんにつかうことが悪いとは、いちがいに言えないのでは? 問題はつかい方でしょうね。

司会(松山):
 というと?

北野:
 ゴルフの石川遼選手ですが、このところ、松山英樹選手のいきおいにおされて、やや陰がうすい。ですが、彼は6歳でゴルフをはじめ、小、中学校で優秀な成績を上げ、16歳で史上最年少のプロゴルファーになっています。現在の彼があるのは、金銭面も含めて父親の行なった英才教育のおかげでしょうね。

司会(松山):
 なるほど。親が子の才能を発見し、一流のゴルファーに育てあげた。だけど、それには相当のお金も子供のためにつぎ込んだということですか。

北野:
 ええ。

白井:
 そういえば、近ごろは14~16歳といった少年・少女がオリンピックなんかで大活躍していますね。金メダルをとったり・・・。

司会(松山):
 それはスポーツばかりではないですね。29連勝を達成してマスコミをさわがせた将棋の藤井6段。もちろんあの少年が将棋に天賦の才をもっていることはまちがいないけど、それを見抜いたご両親もすごい。愛情の大きさにも頭が下がりますね。

白井:
 ほんとに。そういった若い天才たちが世に生まれ出る裏には、親ごさんの骨身をおしまない貢献があった。そう思いますね。

丸山:
 ふつう、親としては、子供が将棋ばかりしていたら、文句の一つも言いたくなりますものね。

白井:
 遊んでばかりいないで、すこしは勉強しなさいってねェ。

司会(松山):
 たしかに、若い天才が育つには、親の教育のありかたがキー・ポイントでしょうね。丸山さん、ありがとうございました。さて、いま日本は長寿国として、世界のトップに立っているといわれます。人生100年の時代に入りつつある。すると、生きかたや仕事とのかかわり方が大きく変わってくると思われます。北野さん、この点はどう考えますか。

北野:
 みんなが元気で100年生きる時代になると、たしかに変ってくるでしようね。パラダイムの転換が起こるのではないでしょうか。

司会(松山):
 というと、どうような?

北野:
 これまでは、学校で勉強し、卒業すると仕事につく。60歳で  停年となり後は隠居生活に入る。それがふつうだった。つまり人生はシンプルな3つのステージだった。だけど、人生100年となれば、停年が80歳になることもありうるでしょうね。

司会(松山):
 つまり、長い年月を働くことになる?

北野:
 ええ。すると、二度、三度と新しい仕事にチャレンジしなければならないことになる。それに私の父の時代は男が外に出て働き、女性が家事や子育てをするというのがふつうでした。だけど、人生100年時代には、とも稼ぎがふつうになり、家事も妻だけではなく、夫も当たり前にやるようになる・・・

司会(松山):
 それはどうして?

北野:
 夫だけが60年も働きつづけるのは、いろんな意味で困難でしょう。からだだってキツイでしょうし、仕事場である会社が60年も存続するとはかぎらない・・・。奥さんが働くのは、夫の負担をかるくしたり、失業のリスクを分散する意味でもいいんじゃないかと思いますね。

司会(松山):
 さきほどイギリス人でビジネス学校の教授をしている人の話を紹介しましたが、その人が北野さんと同じようなことを言っています。長寿化に対処するには、マルチステージの人生、つまり生涯に二つ、三つのキャリア(職業)をもつことがあたりまえになるとも。

北野:
 そうですか。でも、105歳で亡くなるまで現役の医師をつらぬいた日野原さんのような人もいますね。あの人は、生涯をかけて命の尊さを説いた人でした。

司会(松山):
 芸術のほうでは、小倉遊亀(おぐらゆき)という女流画家がいました。小倉さんはやはり100歳をこえても絵筆をとって描きつづけた人でした。

白井:
 あのかたは、たしか北鎌倉にお住まいでしたね。

丸山:
 ええ、浄智寺のすぐそばに。日本を代表する日本画家でした。

司会(松山):
 自分自身の手で価値をつくり出す。そういう仕事をしている人たちは、一生をとおしてその道に打ち込めるのでしょうね。だれもができることではないですが。

北野:
 そういう世界を見つけだしその道を生涯つらぬいていく。価値をつみ上げながら。それは一つの素晴らしい生きかたではないかとおもいますね。

司会(松山):
 たしかに。しかし、素晴らしい生きかたって、なにもおおげさに考えなくてもいいと思うんですよ。ヒルティーは幸福論のなかで、「せまい範囲で自分の小天地を築きあげている変わり者さえ、この上なく幸福なのである」といっています。どんな仕事についていても、その自分の仕事の中や周辺に「小天地」をつくり上げることはだれもができること。すると、〝しあわせは 心ひとつの 置きどころ〟で、だれもがそのような納得できる人生をつくることができる・・・。

北野:
 それは即興(そっきょう)でつくった川柳ですか(笑)。

司会(松山):
 さて、最後になりますが、ニートの問題をとりあげてみたいと思います。なにかと話題になっていますので。白井さん、なにかご意見ありませんか?

白井:
 うちの息子に聞いた話なんですが、先輩のAさんがニートみたいなんです。大学を出て1、2年で退職。そのあとは就職もしないで家にひきこもっているんですって。

司会(松山):
 うちではAさん、なにをして過ごしているんですかね。

白井:
 よくわかりませんが、テレビを見たりごろごろして暮らしているようです。部屋も散らかしっぱなしで・・・。

司会(松山):
 すると親ごさんのスネかじりで暮らしている?

白井:
 そのようですね。息子にいわせると、そういう人って日本には何十万人もいるそうなんです。

北野:
 だって、人はだれにだって、好きなときに起きて、好きなことだけをして、眠りたいだけ寝ていたいっていう願望があるじゃないですか。Aさんは自分の欲望に忠実に生きているというだけなんじゃないのかな。

司会(松山):
 すると北野さんは、そういうAさんの生きかたはそれでいいと?

北野:
 いや、いいとか悪いとかいうことではないとおもうんです。それで暮らしていけるなら、そのまま放っておいてあげたらいい。病気ならば別ですが、健康な人ならいずれ自分でなんとかするでしょうし。

司会(松山):
 そういえば、かつて、テレビで“ニートの先の幸せ”というのをやっていました。その番組では、元ニートの男性が「お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法」という本を出版したり、働かないで生きることについて講演をしている様子を紹介。いまではしっかりとそうやって収入を得ているというんですね。

北野:
 知っています、その話。それに、ニートといってもふたとおりある。ひとつは、ふつうのニート。もう一つは、会社などで働かない。だけど自宅にいながらふつうのサラリーマンの10倍以上を稼いでいるといったニートです。

司会(松山):
 ネオニートと呼ばれる人たちでしょう。10倍はともかくとして、収入がある。株やらFX、あるいは収入の入ってくる仕組みをつくりあげている人たちですね。

北野:
 ええ。こういったニートの人たちは、過労死が心配ですけど(笑)。

白井:
 スローライフといった、ゆったりした暮らしかたも提案されているじゃないですか。そういうなかから素晴しいものがつくり出されていくこともあるのではないか。そう思うんですが、どうでしょうか。

北野:
 たしかに。ただ目先のことに追われてドタバタ働くばかりがいいというものでもない・・・・。

白井:
 はい。

司会(松山):
 北野さんや白井さんのお話しは、とても意味深だと思うんです。というのは、たしかに日本は物質的には資源にとぼしい国だといわれています。いろんな物資を輸入にたよっていますしね。だけど、海外ではJポップ、マンガやアニメ、それにJファッションといった、いわば日本発のソフトがたいへんな人気になっています。ポケモンやドラえもんが子供たちの心をしっかりとつかんで離さない。そう考えると、この日本という国はソフトを生みだす人材が豊富―つまり人材の資源大国-であるといえるのではないでしょうか。

北野:
 私もそう思いますね。これからは、ますますAIロボットが脚光(きゃっこう)をあびるとおもうんです、世界的にみても。すると、子供のころから手塚治虫(おさむ)の鉄腕アトムになれ親しんできた私たちにとって、おおきく活躍の場が広がっているといえるのではないでしょうか。

司会(松山):
 そのとおりでしょうね。ニートや引きこもりといった人たちを含めて、人材がのびのびと力を発揮できるような環境づくりが望まれる。が、それには会社や企業ばかりではなく、国や行政がいっそう力をそそいでほしいところだとおもいます。いろいろと話しはつきませんが、本日のセミナーはひとまずこの辺りで終わりたいとおもいます。ありがとうございました。 







【まとめ】

 今日のセミナー(第1回)では、「仕事」をとりあげました。

 それは幸福な生活にとって仕事がかかすことのできないものといえるからです。

 カール・ヒルティーは幸福論のなかでこういっています。「仕事は幸福の最大の要素である。仕事なしにこの世に幸福はない」と。

 ですが、一口に仕事といっても、つまらないものもあればやりがいのある仕事もある。

 ヒルティーにいわせれば、機械的な労働は人間の尊厳に反し、人を満足させるものではない。これに反し、われを忘れて没頭できる仕事をしている人(たとえば、芸術家、学者)は最も幸福である。いや、ときには、せまい範囲で自分の小天地を築きあげている変り者でさえ、この上なく幸福なのである、といっています。

 たしかに、機械的な労働などは近い将来、今よりさらにAIロボットにとってかわられるリスクもあるとおもわれます。

 そのせいか、今年(2018年)1月15日のある調査によると、男子のなりたい職業の第1位は「学者か博士」だということです。

 おもうに、生きかたや仕事を考えるというのは、油絵をかくのに似ています。まっ白いキャンバスの上に、こうありたいというイメージをデッサンすることですから。

 近ごろでは、自治体などの行なう仕事の疑似体験のためのイベントも増えています。参加してみるのもデッサンを描くのに役立つかも知れませんね。そしてつぎのステップで、描きあげたデッサンを油絵具でぬりあげていく。それが人生を生きるということだとおもうのです。



 今日のセミナーでは、何をやったらいいのか分からない人へのアドバイス。それに、ニートやひきこもりといわれる人たちのことや人生100年時代のことも話題にのぼりました。

 しかし、レイモンド・チャンドラーの小説に出てくる探偵のフィリップ・マーロウ。彼もいっています。「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」と。

 隠居になってひきこもるのは人生の最後のほうにとっておき、若いうちは大いに身心を動かす。そして強い人間力をつくり上げる。人が社会で生きて仕事をしていくうえでは、まずしっかりとした土台づくりが欠かせませんから。



 さて、このテーマ(仕事)はたいへん大きいものですので、機会があれば続編をやりたいとおもいますが、本日のところはこれをもってひとまず終了とします。

掲載日:平成30年6月9日




 なお、次回は「本との付合いかた」を取り上げてみたいと考えていますので、ご期待ください。






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